貴方への贈りもの
心を込めて、贈ります。
*
パステルは、この頃ずっと部屋に篭っている。
原稿の締め切りかとも思ったけれど、そっちはとうに終わらせているようで。
家事やら細かな用事やらを片付けたら、食事も早々にまた今日も、彼女は自室に篭ってしまった。
今日こそは確かめようと、俺は彼女の部屋の扉をノックする。
「パステル、いいか?」
「あ、クレイ?どうぞ、ちょっと散らかってるけど」
彼女の快活な声に後押しされるように俺は扉を開けた。
そして。
彼女が腰を下ろすベッドの上に、色の洪水を見た。
「ごめんねぇ、今ちょうど端切れ探してて……」
色の洪水の正体は、色とりどりの布切れで。
色も形も大きさも、様々なものが所狭しと溢れかえっている。
そして、彼女の机の上には原稿ではなく、これまた布が置かれていた。
ただしこちらは、正方形にちゃんと裁断された布。
そして、端切れを組み合わせて作られたアップリケのようなものや、刺繍。
「……これ、クリスマスツリーか?」
ちょうど俺の視界に飛び込んでいたのが、緑の布を組み合わせて作られ、上に黄色で星をつけられた布だったので、指差して尋ねると。
彼女は嬉しそうに頷いて。
「良かった、ちゃんとツリーに見えるんだね」
花が綻ぶように笑った。
「リタにね、簡単なクリスマスキルトの作り方を教わったんだ」
俺に説明しながらも、パステルの針を動かす手は休まない。
「ちょうど皆の古い服とかがあったから、端切れはけっこう集まったんだよね。だから、お金かけた飾りとかできないぶん、これぐらいは作ってみようかなって思って……。そしたらすごく楽しくて、ずっと作っちゃってたの」
心配かけてごめんなさい、とパステルは笑い。
笑いながらもその手は休みなく動いて。
やがて出来上がったのは、色鮮やかなリースを縫い付けられたキルト。
よく見れば、小さなボタンも縫い付けられていて。
先程のツリーにも、同じボタンがいくつもつけられていた。
「これ、どうするんだ?」
俺がボタンを指差すと、パステルはウィンクをひとつして。
「仕上げはね、ルーミィに頼むのよ」
やがて完成したキルトを持って、パステルは居間でノルと遊んでいたルーミィに声をかけた。
「ルーミィ、ちょっと来て」
「ぱーるぅ、どしたんらぁ?」
「どうしたデシか?」
シロもやって来て、パステルが手にしていたキルトに視線を送った。
「ホラ、これ。お待ちかねのクリスマスツリーよ」
パステルが布を広げて見せると、ルーミィはぱあっと顔を輝かせた。
「ぱーるぅ、あいがとー!」
「それで、これが飾りよ。シロちゃんと相談して、綺麗に飾り付けてあげてね」
パステルは再度笑って、小さな籠をルーミィに手渡す。
「わかったおぅ!」
「わかったデシ!」
一人と一匹が、力強く頷いた。
「おぉー、綺麗にできたなぁ」
俺の言葉に、ルーミィとシロが誇らしげに胸を張って、ノルもにこやかに応じていた。
パステルがつけたボタンを使って、布のクリスマスツリーとリースにはたくさんの飾りがつけられていた。
そう言えば以前、ツリーの飾り付けをしたい、とパステルに駄々をこねていたルーミィの姿を思い出して。
彼女の希望に応えようとしたパステルのアイディアに、感激する。
「パステル、大変だっただろう」
ノルも俺と同じ気持ちのようで、彼女を労っていた。
「ううん、ちっとも。私も楽しかったもの。ルーミィたちがあれでとりあえず納得してくれたし、頑張って作った甲斐があったわぁ」
連日の夜鍋が響くのか、パステルは疲れた表情を見せながらも笑って答えていた。
そして、その日の夜遅く。
やっぱり今日も彼女の部屋には遅くまで灯が点っていて。
さすがに連日の徹夜は身体に悪いだろうと案じ、俺は再度彼女の部屋を訪ねた。
「パステル?」
控え目に声をかけるが、応答がなくて。
押さえたノックにも反応がなく、俺は思案の末扉を開けた。
施錠もされていなかった扉はするっと開き、俺は難なく部屋の中に滑り込んで。
彼女のベッドの上で目を閉じる、パステルの姿を発見した。
その手には、キルトではなくて編み針と、青い毛糸玉。
編まれていたのはどうやら帽子のようで、しかもその色には確かに見覚えがあった。
昨年彼女が贈ってくれたマフラーと、同じ色をしていたから。
(……俺に?)
ずっと裁縫をやって、疲れているはずなのに。俺のためにまで、こんなに無理して頑張ってくれる彼女に。
沸き起こるのは、確かな気持ち。
「……ありがとう」
とりあえず、眠る彼女にそっと毛布をかけてやって。
編みかけの毛糸には、見て見ぬふりをすることにしてから。
俺はそっと、彼女の部屋を後にして。
あんなに素敵な贈り物を用意してくれているパステルに、何を贈るべきだろうかと、真剣に悩み始めた。
*
想いを込めて、贈ります。