「あれ? クレイ、お前何やってんだ?」
「うわっ!! すげーぐちゃぐちゃ……」
甘い香りがして、気になった俺とイムサイが台所を覗くと、クレイが必死の何かを作っていた。
台所は小麦粉が散乱していて、母さんが呆れ顔で突っ立っていた。
「クレイ? 私、これ以上台所荒らされると困るんだけど…。高かったのよ、このセット…」
「嫌だ、俺がちゃんと整理するって。あ……あれ?」
「ああ、ほらほら、分離しちゃってるじゃない、やり直し!」
母さんが言うと、クレイはため息をついてボールを洗い始めた。
『……?』
俺とイムサイは思わず同じ顔を見合わせた。
「丁度良いわ、アルテアとイムサイも手伝いなさいよ。あなたたちも、どうせファンのコからもらったんでしょう、
バレンタインの……。もてる息子どもを持つにも苦労するわねぇ…。今日は台所貸切よ♪」
やけに母さんははりきっている…。そういえば、バレンタインとかいうのあったなぁ…。去年はお返しに全
部ハンカチでまとめたはず。ホワイトデーって手作りしたことねーし…。
「ま、暇だからいいけど。で、何するわけ?」
「クッキー焼くのよ」
『クッキ――!?』
「二人して叫ばないでよ……」
「悪い……。でも、俺作ったことねーぞ?」
「全部仕込んであげるから覚悟しなさい!!」
覚悟しなさいって……げげっやな予感……。
その後みっちり母さんに仕込まれたのは言うまでもない。
(3人の爆笑会話)
アルテア「クレイは誰に渡すんだ?」
クレイ 「え……。パステルに……」
イムサイ「この前うちに来た子だろ。ほら、あの祭壇の時の……」
アルテア「ああ〜、あのコか。お前ああいうのがタイプなんだ」
クレイ 「うるさいなぁ。俺は兄貴たちと違って健全なの!」
アルテア「言ったな、こいつ〜〜〜〜!!(怒)」
イムサイ「『たち』ってアルテアと一緒にすんなよ!」
アルテア「おい、そりゃ俺の台詞……」
クレイ 「どっちも同じなんだろ。本命ぐらい作ればいいのに…」
イムサイ「それは作者――有希――に言え! 絶対奴は楽しんでる…」
クレイ 「人のせいにするなよ」
イムサイ「生意気…。仕返しだ!」
クレイ 「げっ。おい兄貴、せっかく型抜いたんだぞ? 苦労したのに……」
アルテア「俺一番乗り。じゃあな!」
イムサイ「げげっ、アルテア抜け駆けは許さんぞ。お前も道連れだ」
アルテア「おい! てめぇ……。何しやがる!」
ここで3人が母親に叱られることはいわなくてもわかるだろう…。
『あなたたちねぇ……、後片付けするのは私なのよ? 3人とも最初からやり直しなさい!!』
(クレイの視点)
後片付けをし終えてやっと一息ついた。2人の兄貴たちはぐったりしている。
「クレイ、あなた動けそうならこのボールを上にしまってくれない?」
俺は母さんからボールを受け取ると上棚へしまった。
「母さん……ごめん…」
「何が?」
「材料無駄にしたりいろいろと迷惑かけたからさ…」
「気にしてないわよ」
母さんはそう言うとにっこり微笑んだ。
「アルテアもイムサイもクレイも、3人とも私の自慢の息子だもの。
いつも言ってるけれど礼儀だけはちゃんとしないとね。
クレイ、あなたならきっとうまく行くわ。アルテアとイムサイはいつか本命を決めなさい」
俺は少し照れくさかった。
3人とも不思議な感じに包まれたようだった。甘いクッキーの香りが家中に充満する。
3月14日……パステルは俺の気持ちを受け取ってくれるだろうか……
しばらくしてオーブンの合図がなり、俺はラッピングを丁寧にすると、パステルとの待ち合わせの場所に急いだ。
彼女は…もう既に来ていた。いつもの髪型とは違った少し、大人っぽい格好で。
“好きだ”
いつもより、好きの大きさが大きかったように思えた。
俺は香りのいいこのクッキーともうひとつ彼女へプレゼントしようと思う。
〜f i n〜