星のかけら

「お願い……があるんだけど……」
 バイトから戻ったクレイが、一人になるのを、ずっと目で追っていたのに、まだためらっている。
 でも、心とはうらはらに、頬が紅潮するのが、わかる。
「あぁ、いいよ。 でも、おれに出来ることならな」
「じゃぁ、コレっ!!!!!!」
 必死で瞳から目をそらすと、ちょっと皺になってしまったメモを押し付ける。
「何だい?」
「あっ、後で見てっ!」
 それだけ言うと、外に向って走り出していた。
 あーーーっ、バカバカバカ。
 ナンデモット普通ニ出来ナイノ……。
 クレイの呆れたような、困惑した表情が、浮かんでは消える。

  『夕食後、星をたどって来て下さい』
 一生懸命、考えた末、これだけしか、書けなかった。
 仮にも文章を得意とする私が。
「来る、来ない、わかる、わからない、来る、来ない、わかる……」
 気がつくと、花びら占いのように、小さくつぶやいていた。

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   バイトから戻るのが、遅かったせいか、食事を終えた皆は、部屋に戻っていった。
 久し振りに一人でとる食事は、味気なく、パステルのメモばかり、気にしていた。
 簡単に、後片付けをして、再びマントを羽織って外に出る。
 見上げれば、一面の星……。
「星をたどる……って、どの星か、書いてなかったからなぁ」
 パステルは何を伝えたかったんだろう。
 小さなタメイキとともに、視線を下げる……と、目の端で、何かが光った。
 あれは……。
 昔よく、遊んだ道具のひとつ ------ 『星のかけら』だった。
「あはははは、これかぁ」
 小さな青い光に、手招きされるかのように、歩いていった。

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   星明りだけでも、夜目は効く。
 そう知ったのは、いつだろう。
 それは、冒険者になってから ------。
 ------ ううん、家を出た、あの時からかな……。
 時折吹く風に、冷えた手を見つめながら思う。
 出逢った森では、怯える私の手を引いてくれたよね。
 あの時から、いつも一緒に歩いてきてくれたね。
 それから、ずっと、同じようなことで、喜んだり、哀しんだり、悩んだりした。
 共有した時間の分だけ、惹かれていく気持ちが大きくなって ------。

  「パステル?」
 確かめるような声に、弾かれたように立ち上がる。
「ごめんね。 すぐわかった?」
「あぁ、『星のかけら』だろ? あれは、本とセットなんだけどな」
「えっ? クレイの部屋にちゃんと置いておいたよ」
「ん? あはは、部屋に戻ってないから、気がつかなかったよ」
 オカシイの。 いつもこんな調子だね。 私達。
「ところで、何の用事。 相談?」
「ううん。 こっちに来て」

「ほら、見て」
 小高い丘から眺める町並のイルミネーション。
「へぇー。 こんな場所があったんだ」
「ねっ、きれいでしょ……。 く、くしゅん」
「バカだな、そんな薄着してるから……」
 冷たい風に、身を震わせた私を、マントに招き入れる。
「……あったかい」
「あぁ、厚着してきたからな」
 笑いをにじませながら、優しく抱きしめられた。

  「それにしても、よく見付けたな、この場所」
「うん。 偶然、見つけたの」
「そっか」
「クリスマスには、少し早いけれど、一緒に見たかったんだ。 明日はバイトも休みだし」
「……」
 小さな声で囁いたクレイが、髪を撫ぜる。
「ん?」 
「あ、いや。 髪に『星のかけら』がついてたからさ」
 いいや、そういうコトにしとこう。
 繰り返される、手のぬくもりが、気持ちいいから。
 クレイの胸に耳を当てたまま、目を閉じる。
「私も……」
 小さな声で、つぶやくと、かすかに引き寄せられた。

       まだ声にならない想い。
     それは、小さいけれど、心の中に息づいている。 
     『星のかけら』のように、微かな輝きを放って。
     二人だけの瞬間。 
     悠久の聖夜は続く------


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