クリスマスキャロルはかく流れて



 神を讃え。
 和を願い。

 静かに過ぎ行く、時。


   *


「……なあ」
「何よ?」

「俺らってさ、物凄く場違いじゃね?」
さっきから考えていたことを口にすれば、たちまち隣に座る女の機嫌が急降下。
眉根を寄せ、鋭い目つきで俺をじろりと睨みつけるその態度に、ぞっとして。
背筋を伝う嫌な汗を、自覚。
「……はあぁ。本っ当に、あんたって男には、デリカシーの欠片どころか屑ひとつすらないわよねぇ」
盛大に溜息をついて、女─マリーナは俺に向かって、吐き棄てるように言った。
「私だって、別に自分が敬虔なクリスチャンに見えるとは思ってないわ。だけど、こんな日ぐらいはね、神の前で静かに心落ち着けたくもなるってもんなの」

それに、と。
「可愛い彼女にプレゼントひとつ贈る予算のない甲斐性ナシのおかげで『金のかからないデート』を検討した結果なんですからね」
マリーナはそう言うと、流し目を俺に向ける。
弱点を指摘され、俺はぐうの音も出なくなってしまい、ただそっぽを向いた。



襲い来る睡魔と闘う事、1時間半。
そして、ミサ参加者全員を招くために用意された夕餉。
俺たちはどうにか眠らず最後までやり過ごし、教会を後にしたのは既に午後9時を過ぎている頃だった。
「ったく、寒いなあ」
「冬だもん、仕方ないでしょ?でも本当に、寒いわねぇ」
吐く息が白い中、他愛もない事を話題にしつつ、歩みを進める俺たちに。
いつの間にかふんわりと、白く儚い花弁が積もる。

「……雪かよ」
「本当だわ!ホワイトクリスマスね、素敵」
うんざり声を上げる俺と、歓声を上げるマリーナ。
この違いは、どこから来るんだろうかと、首を傾げる。
「ったくお前さ、やたら明るくねぇ?」
尋ねてみれば、さも当然であるかのようにマリーナは答えた。
「だって当たり前でしょ!せっかく素敵なミサにも出たし、一応隣にアンタもいたし。私的には最上級のクリスマス、だったわよ」

「………………」

予想外の一言に、俺はただ絶句する。
そんな俺には全く関知しないまま、マリーナは不意に、にっこり笑って。
「ね、トラップ」
「……あんだよ」

「メリークリスマス」

……まさに反則の。
レッドカード級の表情で、告げやがった。



だから。
俺は仕方なく、マリーナに向かって。

「………メリークリスマス」

ぼそりと、言葉を贈ってやった。


   *


 神より、世界より。
 俺が一番讃えるのは。

 たった、ひとり。

 さあ。
 聖なる夜を、祝おうか。





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