「お誕生日おめでとうございます。パステルお嬢さま」
「もう、いい加減お嬢さまなんて歳じゃないでしょう?」
今年もまた、いつもと同じやりとりでわたしの、40歳の誕生日をお祝いしてくれるパーティが始まった。
わたしは、パステル。パステル・G・キング。弁護士で、小説家です。
……とはいっても、小説はもうしばらく書いていないけど。
今でも、10年前の小説にファンレターが、本当に時々だけど来てね、ああ、わたしって小説家だったんだっけって思い出す。そんな程 度だ。
今日のパーティには、昔からの友人……ふるさとのガイナの幼なじみとか……や、近所の人たちが集まってくれていた。毎年もう10年 以上やっているから、触れ回らなくても人が集まってくれた。
残念なことに、今は真冬で庭を使ってパーティをする事は出来ないけれど、家の中で派手ではないけれどみんなで飲み食いして騒いでい る。
「パステルおねーしゃん、外にお花が来ているデシよ」
と、下から声が聞こえる。もうみんな知っているかもしれないけれど、ホワイトドラゴンのシロちゃん。もう20年以上もずっと私の側に いるんだ。
彼の黒くてくりくりした目を見るたび、今でも少し胸が苦しくなる。
昔、冒険者をしていた頃の思い出がよみがえってくる……って、そんなことどうでもよかったわね。わたしは、シロちゃんについてい き、お花を中に入れる作業を始める。
「やっぱり……今年は40本なのね」
40本……つまり、わたしの歳の数である。ため息をつくが、その表情はゆるんでいた。
実は、わたしが誕生日のパーティを40歳になっても毎年パーティを開いているのは、このお花を送ってくれる人に、会いたいからなの だが……。
この花が最初に送られてきたのは、かれこれ10年前のことだった。
15年前、当時まだ冒険者だったわたしは、同じパーティにいたある男性と恋に落ち、結婚引退のような形で冒険者を辞めた。
彼は、とても優しい人だった。わたしのことを深く愛していてくれていた。と、思う。
でも、彼は他の女の子にも優しすぎた。わたしは、その女の子のことが少し憎かったんだろうな。
表面上は知っていてもそれで良いと思っていたんだけど、やっぱり心の底は隠せなくて、それが彼にも伝わってしまったのだ。
わたしが書き始めた恋愛小説、それがまるで自分が彼とやっていけないかのような話をひとりでに作っていった。それを見て、彼は何も 言わずに「別れよう」と。そして、私はそれを望んだ……。
そして、ガイナのジョシュアのいる家へと戻り、さらにゲインズビルの今の家に至っている。
ガイナの家に戻ったとき、恋愛小説の方はほとんど最後の方まで書き上がっていた。書きかけたものだからと、最後まで書こうとしたん だけど……何故か、筆が動かなくなってしまった。
皮肉なことにこれがベストセラーにまでなってしまっていたのだが、わたしは悩んだあげくに……最後の部分だけを残して筆を折った。
……それが10年前のことだった。そして、時期に、冬が来て、わたしの誕生日が来たとき、朝起きてみると、家の前に30本の黄色い フリージアの花束が静かに置かれていた……。
よくよく考えてみると、まるで私の書いた恋愛小説そっくりな情景である。でも、いったい誰が……。
それから、毎年今日になるとこうやってお花が置かれていたのだ。わたしの歳の数だけ……。
その人にお会いしたくて、毎年わたしの誕生日にはとにかく早く起きて、門を開けて入りやすいようにしていた。パーティをするという 名目で、わたしは、その人を待ち続けていたのかもしれない。
「あ、いらっしゃい、はい、どうぞどなたでも大歓迎です」
ジョシュアの声が聞こえた。どうやら、初めてのお客様のようだった。
わたしも挨拶をしに行こうと玄関の方へと向かう。
「あ、パステルさん、お久しぶりです。お変わりのないようで」
と、ちょっと低めのかっこいい声で会釈しているのは、アルテアさんだった。
「あ、こちらこそお久しぶりです。アルテアさん」
もう45に届こうという歳のはずなのに、まだ20台の風貌をとどめている。
私なんて、もう年相応なのにね……さすが騎士だなぁと思わず見とれてしまう。
「なあ、クレイ……来てるだろ? どこにいるかな?」
へ? クレイ? わたしは聞き返す。
だって、クレイなんて、もう10年以上見ていないのに……。
「……きてないの? おっかしいなぁ。あいつ、毎年この季節に決まってゲインズビルの警備に出向いているんだよ。今年なんて、騎士隊 長に昇格して、緑隊を率いているというのに……部隊ごとこっちに来てるはずなんだが……」
「こんにちは〜。ここでパーティやっているって聞いたんですが……」
と、やってきたのは2人組みの若い男。鎧や剣を付けて、ロンザ国の紋章まで付けている。
「あ、いらっしゃい〜」
わたしは中へどうぞと微笑む。
「おまえたち、騎士団緑隊の騎士だな? 隊長のクレイ・S・アンダーソンはどちらにおられるかな?」
「あ、……隊長は、朝早くこちらの見回りを終えて、町はずれでキャンプを張っております」
騎士達は、アルテアさんが身の証明をするのを見て、かしこまって場所を教える。
「それでは、私は失礼します。またの機会にお会いしましょう」
と、アルテアさんは駆け出すように去っていってしまった。
取り残された格好となった騎士2人は、どうしようか少し迷っているようだったが、わたしがどうぞというと、彼らは1日パーティに参 加していた。
次の日からまるで取り憑かれたようにわたしは机に向かっていた。
昨日、あれから騎士達に話を聞き、自分の胸の中で感情がわき上がるようにこみ上げてきた。
……そう、あの恋愛小説のように話は、進んでいたのだ。だから、書けないのは当たり前だったんだ。
わたし自身が幕を下ろさない限り、この小説に終わりはあり得ないのだ。
……この小説の主人公は、他でもない、私自身だったのだ。
わたし自身に決着を付けるため、10年間逃げ続けた私を、25年間見捨てずに見守ってくれた彼のため……。わたしは、ありったけの 感情を詰めてペンを取っていた。
この小説……「未来予想図」の最終章に……。
……そして、それから9ヶ月弱、冬の終わりから秋の終わりまでをかけて、わたしはその最後を書き終えた。
でも、まだ終わりじゃあない。わたしにはまだしなければ行けないことがある。
シルバーリーブにある小さな家に、それはあった。わたしは、家の前でコンコンと扉を叩き、中から扉が開くのを待つ。
かちゃり、扉が開き、中から壮年の、しかし若々しい雰囲気を持つ男性が顔を出す。
「……小説、出来たの……。読んでくれる?」
と、小脇に抱えた紙の束を見せる。彼は、はっとした表情をしたが、入ってと言って、わたしを迎え入れる……。
「わかってるんだよな? ここに来たって言うことは……俺が、この小説の通りに花を置いたり……」
わたしは、小さく頷くと、彼は読みふけるように紙の文字を追い出した……。
……エピローグ(抜粋)
彼の誕生日に、わたしは彼の元に駆けつけ、すべてを問いただす。
彼は何も言わずにただ見ているだけ。
わたしは胸がどんどん締め付けられていく。
そして、一言だけ、言葉を交わす。
41本のフリージア……、それを手にすることはもう、ないだろう……
『あとがき
今まで、私の小説を読んでくださったみなさまへ、たいへん長らくお待たせしてしまいました。
たくさんのファンレターをいただきながら、10年も続きが書けなかったことを深くお詫び申し上げます。
この小説、実はわたしのこの10年間の生活の「未来予想図」でした。しかし、最後……一番最後の所だけは、「未来」として書くこと をためらってしまいました。そして、10年悩み続けて、ようやっと書いたのが今回の完結編です。
筆を置いてから10年、精一杯努力いたしましたが、至らぬ点があるかもしれません。どうかご容赦願います。
最後になりましたが、この小説を書く際にモデルとなっていただいた元夫、そして、本編にもありましたが、10年も待ち続けてくれた 夫、そして、10年間見守り続けてくれたジョシュア、そのほか近所の方々……また、ファンレターを送って下さった皆さん、私の本を一 度でも取ってみたことのある皆さん、本当に、どうもありがとうございした。
ゲインズビル・自宅にて。 パステル・G・キング』
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